だまらん

jok ← Junji Okamoto
top [2005/11/30]  封印された書:第7回自己点検・評価報告書

封印された書:第7回自己点検・評価報告書 [2005/11/30]

1. イントロダクション
2. 巻頭言 — 評価を大学の充実に活かすべし —
3. 「第7回自己点検・評価報告書」はなぜ封印されたか?
4 結論

1. イントロダクション

1991年,「大学の自己点検・評価」は,学内外に報告することが義務づけられた. これは同年に「大学設置基準」が大幅に緩和されたことと深くかかわってい る.大学の設置基準緩和により,大学側に大幅な自由が認められたのと同時に, 大学側には自己点検・評価が求められ,それに基づく教育・研究環境の改善へ向 けた自主的努力が責務となった. 1947年に設立された大学基準協会 は,そのような流れにのり,「大学の自己点検・評価」を前提とした大学の評価 機関としての役割を演ずるようになった ( 大学評価概要参照,2005/12/1/リンク修正).2005年4月1日現在で大学基準協会に 正会員として登録している大学数は,合計322校 (国立 41,公立 28,私立 253,株式会社立 0), 賛助会員として登録している大学数は,合計274校 (国立 45,公立 30,私立 199,株式会社立 0)に及ぶ.

2004年4月1日には, 大学の第三者評価が法的に義務づけられるに至った.具体的に言えば, 大学は,7年以内に一度(専門職大学院は5年以内に一度), 文部科学大臣の認証を受けた「認証評価機関」により評価を受けねばならない.

しかし,大学評価に関しては,その評価の担当者,およびその評価基準が厳しく 問われなければならないこと,一元的な基準で大学評価を行なってはならないこ とが認識されており,その意味で,本来の大学評価のあり方を研究する必要性が叫ばれている. 「大学の第三者評価」が法的に義務ずけられるほんの少し前(2004年3月28日)に, 大学評価学会が設立されているが, まさに,そのような視点に立った大学評価研究がスタートしたと言える.

さらに,日本私立大学協会は,私学高等教育研究所を設立して, かねてから新たな第三者評価機関を検討していたが, 2005年7月12日には,ついに 財団法人 日本高等教育評価機構としてスタートした.

しかし,ここに「自己点検・評価」の結果を公表していない大学がある. それは,東京都立大学である. 東京都立大学の第7回自己点検・評価報告書(『東京都立大学2004 〜教育研究の 成果と到達点〜』)は,実は, 2005年3月25日には発行され,学内外へ配布される予定だった. しかし,どこかで誰かが何の理由からかわからないが,配布を差し止めている. こんなことがあってよいのだろうか?

2. 巻頭言 — 評価を大学の充実に活かすべし —

東京都立大学の第7回自己点検・評価報告書の巻頭には,当時の総長による, 以下のような言葉が記されている.

             巻  頭  言
          〜評価を大学の充実に活かすべし〜
                            東京都立大学総長
                              茂 木 俊 彦

 今日,わが国の高等教育行政,大学の設置許可行政等は急速に変貌を遂げつつ ある.設置認可についてはその大幅な緩和が顕著であり,それは,たとえば構造 改革特別区域(特区)の認定に基づく株式会社立大学のように,これまでの「大 学」認識では想像できなかったような大学が登場するなどの事実に明確にあらわ れている.
 認可の緩和は,大学設置後の評価の強化,大学間競争の奨励と不可分である. 自己点検などが大学の努力義務とされ,その報告書の提出が国立大学に義務づけ られたのは 1991年のことであるが,その後中教審答申「大学の質の保証に係わ る新たなシステムの構築について」が出され,学校教育法も改正されて「第三者 評価制度の導入」が実施に移された.すなわち大学は自己点検・評価を行なって それを公表すると共に,第三者評価を受けることが義務づけられ,後者について は認証評価機関による評価を7年の期間内に必ず受けなければならないというこ とになったのである.ちなみに本年度,大学基準協会,大学評価学位授与機構が 認証評価機関として認証されたが,さらに短大基準協会,私学協会が設立する高 等教育評価機構も認証を受けるべく準備中と聞く.
 このような動きの中で,自己点検・評価はその意義,重要性をいちだんと増し ている.しかし,言うまでもないことであるが,自己点検・評価はそれを実施す るだけで自己完結するのでは意味がない.第三者評価においても問われるであろ うが,問題はそれがどう活かされるかである.本学においては,隔年に自己点検・ 評価を行なってきて,今回の報告書が第7回報告書になるが,この間,取り組み の成果をたとえば学生による授業評価の教員へのフィードバックに見るように, 教育と研究の改善,FDに活かし,さらに社会貢献につなげる努力も次第に強め てきた.しかし,これまでの「活かす」取り組みは,やはり不十分であったと自 己評価せざるを得ないのではないかと思う.2005年からの法人化後は,評価がさ らに法人と大学の大きな制度・運営上の戦略の策定にも意識的に活かされ,大学 間競争の生き残りにも役立てられなければならない.
 さて,東京都立大学条例に基づいて都が設置してきた公立大学としての本学は, 本年度をもってその幕を閉じる.東京都立大学について都条例第1条は次のよう に規定している.
 「東京都における学術研究の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専 門の学術を研究し,あわせて都民の生活および文化の向上発展に寄与するため, 学校教育法(昭和22年法律第26号の規定による大学として,東京都立大学 (以下「都立大学」という)を設置する」.
 この自己点検・評価報告書も東京都立大学としては最後のものになる.私は, 本学の開学以来の教職員,学生等による営為が,上記の条例の規定に十分に対応 したものであったこと,本報告書が本学の締めくくりにふさわしい水準と内容の ものとなっていることを確信している.だが,同時に次のように期待もしたい.
 本報告書の成果は,ぜひ公立大学法人首都大学東京の「東京都立大学」の運営 に活かしてもらいたい.同時に,「首都大学東京」の充実のためにも,ここに表 現された豊かな蓄積を存分に活かす努力をしてほしい.

3. 「第7回自己点検・評価報告書」はなぜ封印されたか?

 上で述べたように,公表を義務ずけられている自己点検・評価の結果が公 表されないでいるというのは,まことに奇妙な状況である.本来,2005年3 月には,学内外に配布される予定だった,500ページ近い報告書が,11月になっ ても,どこかでまだ大量に眠っているのだ.印刷はされ,納入もされている報告書が隠されている. なぜだろう?

想像できることと言えば,この報告書を配布して欲しくない,と願う人がい るのだろう.では,なぜ,この報告書が封印されているのだろうか?

この報告書は,多くの都立大教員と事務員が莫大な時間をかけて作成したものだ. その中には,この2004年度一年間でどのような教育と研究が行なわれたかが, さまざまな角度から述べられている.そして,その反省点が記され,どのように したらよりよい教育・研究体制ができるかという提案もあるだろう.

思い起こせば,最後の一年間は,さまざまな学科で苦難の連続だった. ある学科では助手が不在となり,補うことができずに苦労し,実習の必要な教科 で十分な機材が確保できなかったり,退職教員が相次ぐ一方で,その補充人事が 認められず,学生の教育に大きな影響がでた.研究費がなかなか配 分されずに,教育研究に大きな支障がでたりした.非常勤講師の依頼できる数が 減らされ,常勤の教員の減少とともに先行きのめどの立たない学科もでた. 学生・院生の中には、大学が「改革騒動」に巻き込まれた影響で、教育や研究で, 本来の学業が阻害されたと感じるアンケート結果もあるのではないか. このような苦難の一年が,この報告書には綴られているはずだ.

これらの反省点に基づき改善を求めるのなら,当然,教育・研究環境の向上の ために必要な予算をつけ,人員を配置しなければ解決できない.しかし, 大学法人の基本的運営方針が,「予算と人員の削減」を主眼においているのだから, 無理な話である.ましてや, 2010年度まで存続する東京都立大学は,もはや主役の座を追われてしまっている から,教育・研究環境の向上なんて不可能なのだろう. では,首都大学東京は,というと,それはもう,「全く新しい大学だから」 関係ない,と逃げたいのだ.首都大学東京の影に入ってしまった東京都立大学, しかし,今年はまだ一年目で,首都大学東京の学生は,1年生しかいない. つまり,大部分が東京都立大学の学生なのに,彼らの教育・研究のことを前年度 の「自己点検・評価報告書」に基づいて改善する気など,きっとさらさらないの だ.そんなことでいいわけがない!

4. 結論

公立大学法人「首都大学東京」が運営する5大学.それらは,すでに東京都の手 から離れて,理事長,学長のリーダーシップの元で, 独自の道を歩んでいるはずだった.しかも, 教員は,すでに公務員ではないし,東京都の職員でもない. しかし,その実,予算の出所は東京都であり,どこかでヒモがついている. 基本的に,東京都のどこかで誰かが,「駄目!」といえば,にっちもさっちもい かない公立大学法人なのではないだろうか?

法人の定款では,情報の漏洩を禁止する条項を完備し,都合の悪いことは, 公表しない体制が出来上がっている.すでに, 公の機関ではないので,情報公開が法律で義務づけられているわけでもない. この間,単位バンクにせよ,オープンユニバーシティにせよ, 画期的に進行しているというニュースは全くない.皆,口をつぐんでいる. 公立大学法人「首都大学東京」は,このまま, 当初描いた5年計画を強引に実行していくつもりなのだろうか? 理事長と学長の強力なリーダーシップの話もいっこうに聞こえてこない. そして,今回のような「自己点検・評価報告書」の封印事件だ.

本当に,この公立大学法人は,教育と研究を改善するつもりがあるのだろうか?


top [2005/11/30]  封印された書:第7回自己点検・評価報告書
このページの先頭へ