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2005年10月17日<opinion>

事務職員の声をきけ: 四輪車の欠かせない一輪[2005/10/17], [2005/10/18]

1. イントロダクション

 都立大・短大組合は、 「手から手へ」(2367号)で、 「都派遣職員・固有職員アンケート結果」 を公開した。

 10月13日現在、73名の都派遣職員・ 固有職員に対してのアンケート結果だが、 これを読むと今さらながら大学における事務職員の重要さを考えざるをえない。 折しも8・1事件 以降の都立大・首大の様子を一人の事務職員の目で見たらどう映ったかが、 事務屋のひとり言のサイトで公開されている。一人の事務職員から見える大学像というのは、 必ずしも正確な実像ではないという声があるが、 それを言えば、一人の大学教員の目で見た大学像も、 一人の助手から見た大学像も、一人の大学生の目で見た大学像も、 まったく同じ理由から正確な像ではないので、基本的にその信頼性に大差はない。

 大学という組織は、学生、教員、助手、事務職員の四輪があって初めて前へ進むことのできる四輪車なのだが、 それにまたがって運転しようとする学長や理事長が、 4つの車輪の存在を忘れて、ただ思ったところへ行こうとしても、 うまく運転できるものではない。四輪車の特性を忘れて、 レールの上を走ろうとしたり、はしごを登ろうとしてもそれは無理なのだ。

 4つの車輪の中で、おそらく一番目立たない存在が事務職員である。 しかし、実は、事務職員の役割は、極めて大きい。 教員との接点、学生との接点を持ちながら、 効率よく仕事を進めていかねば大学は動かないし、両者の接点を良好な状態に保つことは、 かなりの努力を要する。
 今回は、都立大・短大組合によって発表された「都派遣職員・固有職員アンケート結果」を読み、 その回答の傾向を分析した。

2. アンケートの概略:派遣職員の場合

アンケートの回答者は、合計73名で、その内訳は、派遣職員が45名、 固有職員が28名である。

派遣職員の回答は、
(1) 18年度以降も大学で働くことを希望する--- 8名
(2) 18年度以降も大学で働くことを希望しない --- 23名
(3) わからない --- 13名
(4) 未回答 --- 1名

「18年度以降も大学で働くことを希望する」という(問いかけを促す)言明に対して、 肯定的に答えたのが8名、否定的に答えたのが23名ということであり、 未回答も「わからない」に含めて全体を考えると、 未回答は態度を決定できていない人たちであり、合計14名となる。
それぞれの割合は、8/45(17.8%)、23/45(51.1%), 14/45(31.1%) となり、以下のようなグラフになる。

派遣職員

新たに首都大学東京(=首大)に派遣されてきた事務職員達が、 およそ6ヶ月でこのような判断をしたとは驚きである。 その中で、8名(17.8%)の方が、それでも「18年度以降も大学で働くことを希望する」 と答えている。この少数派の意見を見てみると以下のようになる。

・異動してきたばかり(3名)。
・経済的事情。
・再雇用の期間がまだ残っている。
・給料がもらえるならば、職場はどこでもかまわない。
・続けて勤務しなければ大学組織について何もわからないから。 表面だけでなく過去の流れも理解した上で、より良い大学づくりに寄与したい。

このように理由をあげたのは、8名中7名のようだが、最後の1名を除いて、 積極的に大学で働くことに意味を見いだそうとする考えではないことが特徴的だ。 派遣事務職員は、もともと派遣先とのつながりがなく移動させられてきた、 と考えられるところから、一般的に派遣先の仕事場になじめなかったり、 親近感を持てないという傾向はあるかもしれない。

しかし、「わからない」と「未回答」 の派遣事務職員の以下の理由を見ると、 それが「続けて働く希望を持っているかときかれても、 まだ分からない」というよりも、 肯定的な意識を持って「18年度以降も大学で働くことを希望する」 と言えないことが理由となっていることが分かる。

わからない(13名)
・必要があれば異動する。
・来年度の組織がみえない。
・3月の内示で言われた勤務状況が変わってきていて負担がかかっている。このままの状況であれば積極的には働きたくない。
・残って大学事務をやる自信がない。
・休日出勤が多く、同じ職場で働くことは困難。他の部署なら大学に残ってもよい。
・職員と教員の一体性が稀薄になってきており、学生を育てる職場ではなくなってしまった。
・都の大学運営については疑問を持っており、このような職場で働くことはできない。
・法人化にしたわりには異動が多く、制度的にも人事面でも落ち着かず、ストレスがたまる。
・本来若者を育てる夢のある職場であるべきだが、夢がもてない。
未回答(1名)
・働き続ける職場の魅力はなくなった。学部におろされている事務が非常に多くなっている。

 最後に派遣事務職員の否定的な答えだが、これは、読めば自明なことなのでこ こでは敢えてコメントしない。首大の抱えるさまざまな問題点が浮き彫りになっ ていることは、言うまでもない。直接、 「都派遣職員・固有職員アンケート結果」 をご覧いただきたい。

3. アンケートの概略:固有職員の場合

固有職員の内、回答を寄せた28名は、以下のような配分になる。
(1) 18年度以降も大学で働くことを希望する --- 21名(75%)
(2) 18年度以降も大学で働くことを希望しない --- 0名
(3) わからない --- 7名(25%)

 固有職員の回答は、派遣職員のものと大きく異なっている。 「18年度以降も大学で働くことを希望しない」 と答えた人はゼロだった。 固有職員とは、そもそも法人が独自に雇用する職員だが、 そのほとんどは1年任期で更新は2回まで、 となっているようだ (参考、 「手から手へ」 2343号、 固有職員にも、時間単位の年休を認めよ 本人の希望を基本に、期限の定めのない雇用へ)。 つまり東京都の職員で、首大で専任として働いている人たちとは境遇が異なる。 (「手から手へ」第2343号 によると、固有職員は2005年4月に約100名採用された、とある)。 そのような事情を勘案すると、 およそ半年で18年度以降も大学で働くことを希望しない、 という回答をすること自体、かなり大胆な決断であることが想像できる。

固有職員

 「18年度以降も大学で働くことを希望する」 を選択した21人のあげた理由を見てみると、およそ3つに分類することができる: (a) いい職場だから・やりがいがある、(b) まだ働き始めたばかりで、もう少し様子をみたい、 (c) やむをえず残る。

(a) いい職場だから・やりがいがある --- 7名
(b) まだ働き始めたばかりで、もう少し様子をみたい --- 2名
(c) やむをえず残る(他に選択肢がないから)--- 5名

 回答者28名中、理由をあげた者は、14名にすぎなかったようだ。 その中で、積極的に評価する者は、7名(25%)に過ぎない。 すると、残りの75%は、実は否定的、もしくは、現実主義的立場であり、 全体の分布はほぼ逆転すると考えられる。 この分類に関しては、主観的な判断も入っているので、以下に、 それらの回答を再録する。


・希望はするが今後の職場環境や待遇の改善に期待します。今後もずっと待遇が改善されない場合は考え直す。
・司書はなかなか職場口がなく、首都大のように仕事内容、給与面で恵まれているところが無いため。
・仕事としてやりがいがある。(2名)
・担当したことのない仕事をゼロからやってしんどかったが、少しづつ慣れてきているのを1年で無駄にするのはあまりにも残念。
・職場、仕事になれてきてこの1年の経験をふまえて、自分なりに改善したい点があるし、関わってみたい業務もある。しかし一方できちんとした立場・待遇で働ける場所も探している。
・関東で選任[sic!]で司書を雇用する大学はほとんど無く、アルバイトに比べたら条件は良いほう。
・生活費が必要だから。
・専門職として雇用され、以前の職場ではできなかった仕事を経験することができ、日々吸収している最中なので、司書としてもっと働いて経験を積みたい。
・図書館司書の仕事にやりがいを感じているから。
・図書館業務は年月を経て身に付いた知識こそが役に立つ。教員、学生と長期的な信頼関係を結んでいくことが、そのまま、図書館サービスの質の向上につながる。本来は専任で雇用されてしかるべきであるし、私自身もよりよい図書館づくりを目指したい。
・職場環境がよい。
・現在の雇用条件で今後もこの大学で働きたい人はいるのか?まともな大学事務職を育てようとする発想が最初から無い。
・職場の環境はとても良く、仕事がしやすいし、学生さんも熱心に図書館にきてくれる。

 さらに、「18年度以降も大学で働くことを希望する」かどうか分からない、 とした固有職員7名のところには、5つの理由が付されているが、 以下に示すように、すべてネガティブな判断を含んでいる。

・仕事の量が同じ職場でも片寄りすぎている。
・先行き不透明でこの先どうなるのか不安。超勤手当が出なくなるという噂も・・。
・専任として採用してもらえないのであれば、他のもっとよい条件のところに転職したい。
・どういう学校にしていこうとしているのか展望がみえない。
・雇用条件に納得して入ったのだが、 思っていた以上に当初条件との矛盾が感じられるようになってきた。また改善等も見込まれない。

 このほかにも、 「都派遣職員・固有職員アンケート結果」 には、職場状況に関する要望が書きつられられており、 深刻なものが多い。

4. 改善運動は進むか?

 行政改革の一環として、公務員削減が旗印に掲げられたのは、 記憶に残るだけでもすでに20年以上経過している。 国公立大学の職員も例外ではなく、事務職員の数は年々減らされてきた。 すでに15〜16年前ですら、専任の職員がたった1人になってしまった、 と嘆く地方国立大学の図書館の話を聞いたことがある。

 事務職員は、大学では縁の下の力持ちである。 現代社会では、新しいコンピュータ・システムの導入で「合理化」する、 と言って実質的には人減らしをする、 そんな方法がすっかり定着してしまった感があるが、 人を相手にする(人を教育する)現場で、 事務職員の数が減るということは、 教育を受ける学生へのサービス低下、 自分の研究を始めたばかりの院生への雑用のおしつけ、 教員の事務仕事の増加による授業や研究の質的低下、 助手の仕事量の増加、 そして少数事務職員への仕事の集中を意味する。

 首大の表向きの理念とは別に、裏側の素顔が、「リストラ」にあり、 東京都の財政を救うためであると噂されたが、 法人化した大学が本当の意味での「すばらしい大学教育」と 「大学でのすばらしい研究活動」を実現するためには、 事務職員もおろそかにしてはいけない。 事務の窓口に行って、学生も助手も教員も、 大学のために働いてくれている職員に感謝の気持ちを持てるような、 そんな大学はすばらしい。そのような大学を実現するためには、 事務職員の労働環境の改善が不可欠である。 実利的な意味での大学の社会貢献を議論するのは、 まず、大学内の諸組織が十分に機能してからの話ではないか。

 派遣職員、固有職員の労働環境を改善することは、 首大にとっての当面の1つの大きな課題であろう。 しかし、任期付きの職員だけで「安上がり」に大学を運営して、 よい大学になるとは思えない。 ここにも、首大の抜本的問題が残されている。 2004年7月16日、 東京都立大学総長から出されたコメントを思い出してしまった (以下の抜粋を参照)。

[2005/10/18]追加

法人固有職員がすべて任期付き雇用であり、 都からの派遣職員も派遣期間が限定されている (「資料」のこの部分、3年以内(10年まで延長可)の記述は、 「公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律」 に基づくと考えてよいか)。
 この案にはまったく賛成できない。 これでは優良な人材を集めることもできないし、 育てることもできないであろう。人事面での不安定性ばかりが強まる結果、 大学事務に関する経験の蓄積、専門性の向上も、 さらには大学づくりに向けての積極的な政策提案も期待できない。

事務組織、事務系職員の問題等についてのコメント(東京都立大学総長,2004年7月16日)

事務系職員の身分等の問題
* 都派遣職員の派遣期間は派遣法に基づくものである。
* 固有職員については、当面、即戦力の任期付き職員とする。

事務組織等に関する意見への回答について(東京都大学管理本部,2004年9月6日)


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